--- title: Podのオーバーヘッド content_type: concept weight: 30 --- {{< feature-state for_k8s_version="v1.24" state="stable" >}} PodをNode上で実行する時に、Pod自身は大量のシステムリソースを消費します。これらのリソースは、Pod内のコンテナ(群)を実行するために必要なリソースとして追加されます。Podのオーバーヘッドは、コンテナの要求と制限に加えて、Podのインフラストラクチャで消費されるリソースを計算するための機能です。 Kubernetesでは、Podの[RuntimeClass](/docs/concepts/containers/runtime-class/)に関連するオーバーヘッドに応じて、[アドミッション](/docs/reference/access-authn-authz/extensible-admission-controllers/#what-are-admission-webhooks)時にPodのオーバーヘッドが設定されます。 Podのオーバーヘッドを有効にした場合、Podのスケジューリング時にコンテナのリソース要求の合計に加えて、オーバーヘッドも考慮されます。同様に、Kubeletは、Podのcgroupのサイズ決定時およびPodの退役の順位付け時に、Podのオーバーヘッドを含めます。 ## Podのオーバーヘッドの有効化 {#set-up} クラスター全体で`PodOverhead`の[フィーチャーゲート](/ja/docs/reference/command-line-tools-reference/feature-gates/)が有効になっていること(1.18時点ではデフォルトでオンになっています)と、`overhead`フィールドを定義する`RuntimeClass`が利用されていることを確認する必要があります。 ## 使用例 Podのオーバーヘッド機能を使用するためには、`overhead`フィールドが定義されたRuntimeClassが必要です。例として、仮想マシンとゲストOSにPodあたり約120MiBを使用する仮想化コンテナランタイムで、次のようなRuntimeClassを定義できます。 ```yaml apiVersion: node.k8s.io/v1 kind: RuntimeClass metadata: name: kata-fc handler: kata-fc overhead: podFixed: memory: "120Mi" cpu: "250m" ``` `kata-fc`RuntimeClassハンドラーを指定して作成されたワークロードは、リソースクォータの計算や、Nodeのスケジューリング、およびPodのcgroupのサイズ決定にメモリーとCPUのオーバーヘッドが考慮されます。 次のtest-podのワークロードの例を実行するとします。 ```yaml apiVersion: v1 kind: Pod metadata: name: test-pod spec: runtimeClassName: kata-fc containers: - name: busybox-ctr image: busybox:1.28 stdin: true tty: true resources: limits: cpu: 500m memory: 100Mi - name: nginx-ctr image: nginx resources: limits: cpu: 1500m memory: 100Mi ``` アドミッション時、RuntimeClass[アドミッションコントローラー](/docs/reference/access-authn-authz/admission-controllers/)は、RuntimeClass内に記述された`オーバーヘッド`を含むようにワークロードのPodSpecを更新します。もし既にPodSpec内にこのフィールドが定義済みの場合、そのPodは拒否されます。この例では、RuntimeClassの名前しか指定されていないため、アドミッションコントローラーは`オーバーヘッド`を含むようにPodを変更します。 RuntimeClassのアドミッションコントローラーの後、更新されたPodSpecを確認できます。 ```bash kubectl get pod test-pod -o jsonpath='{.spec.overhead}' ``` 出力は次の通りです: ``` map[cpu:250m memory:120Mi] ``` ResourceQuotaが定義されている場合、コンテナ要求の合計と`オーバーヘッド`フィールドがカウントされます。 kube-schedulerが新しいPodを実行すべきNodeを決定する際、スケジューラーはそのPodの`オーバーヘッド`と、そのPodに対するコンテナ要求の合計を考慮します。この例だと、スケジューラーは、要求とオーバーヘッドを追加し、2.25CPUと320MiBのメモリを持つNodeを探します。 PodがNodeにスケジュールされると、そのNodeのkubeletはPodのために新しい{{< glossary_tooltip text="cgroup" term_id="cgroup" >}}を生成します。基盤となるコンテナランタイムがコンテナを作成するのは、このPod内です。 リソースにコンテナごとの制限が定義されている場合(制限が定義されているGuaranteed QoSまたはBustrable QoS)、kubeletはそのリソース(CPUはcpu.cfs_quota_us、メモリはmemory.limit_in_bytes)に関連するPodのcgroupの上限を設定します。この上限は、コンテナの制限とPodSpecで定義された`オーバーヘッド`の合計に基づきます。 CPUについては、PodがGuaranteedまたはBurstable QoSの場合、kubeletはコンテナの要求の合計とPodSpecに定義された`オーバーヘッド`に基づいて`cpu.share`を設定します。 次の例より、ワークロードに対するコンテナの要求を確認できます。 ```bash kubectl get pod test-pod -o jsonpath='{.spec.containers[*].resources.limits}' ``` コンテナの要求の合計は、CPUは2000m、メモリーは200MiBです。 ``` map[cpu: 500m memory:100Mi] map[cpu:1500m memory:100Mi] ``` Nodeで観測される値と比較してみましょう。 ```bash kubectl describe node | grep test-pod -B2 ``` 出力では、2250mのCPUと320MiBのメモリーが要求されており、Podのオーバーヘッドが含まれていることが分かります。 ``` Namespace Name CPU Requests CPU Limits Memory Requests Memory Limits AGE --------- ---- ------------ ---------- --------------- ------------- --- default test-pod 2250m (56%) 2250m (56%) 320Mi (1%) 320Mi (1%) 36m ``` ## Podのcgroupの制限を確認 ワークロードで実行中のNode上にある、Podのメモリーのcgroupを確認します。次に示す例では、CRI互換のコンテナランタイムのCLIを提供するNodeで[`crictl`](https://github.com/kubernetes-sigs/cri-tools/blob/master/docs/crictl.md)を使用しています。これはPodのオーバーヘッドの動作を示すための高度な例であり、ユーザーがNode上で直接cgroupsを確認する必要はありません。 まず、特定のNodeで、Podの識別子を決定します。 ```bash # PodがスケジュールされているNodeで実行 POD_ID="$(sudo crictl pods --name test-pod -q)" ``` ここから、Podのcgroupのパスが決定します。 ```bash # PodがスケジュールされているNodeで実行 sudo crictl inspectp -o=json $POD_ID | grep cgroupsPath ``` 結果のcgroupパスにはPodの`ポーズ中`コンテナも含まれます。Podレベルのcgroupは1つ上のディレクトリです。 ``` "cgroupsPath": "/kubepods/podd7f4b509-cf94-4951-9417-d1087c92a5b2/7ccf55aee35dd16aca4189c952d83487297f3cd760f1bbf09620e206e7d0c27a" ``` 今回のケースでは、Podのcgroupパスは、`kubepods/podd7f4b509-cf94-4951-9417-d1087c92a5b2`となります。メモリーのPodレベルのcgroupの設定を確認しましょう。 ```bash # PodがスケジュールされているNodeで実行 # また、Podに割り当てられたcgroupと同じ名前に変更 cat /sys/fs/cgroup/memory/kubepods/podd7f4b509-cf94-4951-9417-d1087c92a5b2/memory.limit_in_bytes ``` 予想通り320MiBです。 ``` 335544320 ``` ### Observability Podのオーバヘッドが利用されているタイミングを特定し、定義されたオーバーヘッドで実行されているワークロードの安定性を観察するため、[kube-state-metrics](https://github.com/kubernetes/kube-state-metrics)には`kube_pod_overhead`というメトリクスが用意されています。この機能はv1.9のkube-state-metricsでは利用できませんが、次のリリースで期待されています。それまでは、kube-state-metricsをソースからビルドする必要があります。 ## {{% heading "whatsnext" %}} * [RuntimeClass](/ja/docs/concepts/containers/runtime-class/) * [Podのオーバーヘッドの設計](https://github.com/kubernetes/enhancements/tree/master/keps/sig-node/688-pod-overhead)